本谷有希子「異類婚姻譚」感想記
これまでなんとなく読んでこなかった本谷作品。
アトロクのコーナー出演を聞いて、やっぱり面白いかも、と思い芥川賞受賞の今作を読んでみた。
- 作者: 本谷有希子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/10/16
- メディア: 文庫
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「異類婚姻譚」というのは、昔話としても鉄板パターンであって、鶴を奥さんにしたり猿を旦那にしたり。
その現代版であり、本谷女史の爽やかな毒を盛り込んだ爽快な短編集であったというのが全体的な感想。
表題作の「異類婚姻譚」は、専業主婦である主人公の顔が夫の顔の変化に気づくところから始まる。
そこから同じマンションに住む老夫婦との関係性を交えて展開されていくのだけれど、
なんてことない日常の描写から突如異常性が炙り出されていって、それがどんどんエスカレートしていく。
思わず肌が粟立つが、よくよく考えるとと起こりえないことではない。
最終的に夫との関係性が大きく変化し、考えつかない結末に着地する。
これがですね、奇妙なおとぎ話の様相を呈しているものの、
なくはないな
とはっきり思えてしまう。
その結末に良し悪しという判断は下らないものだとしても、現実ではそうせざるを得ない状況に発展してしまうのも
他人と人生を共にするということのひとつの道筋であることに変わりはない。
どこかファンタジックなのに、非現実的すぎない話運びに、
お~これが本谷有希子か~と、一本目から感嘆したものです。
いくつかエピソードはあるのだけれど、
一番印象的だったのは「藁の夫」という作品です。
藁でできた夫と結婚した人間の女性の視点から描いたある一日。
藁でできている、ということがそもそも滑稽なんだけど、
表情があったり、筋肉の筋があったりするようで、なんとも人間らしい。
なんたってこの藁人形(失礼)、妻にマラソンの指導をしてる描写から始まるんです。
話の流れを読むと、世田谷あたりに住んでそうな高所得夫婦の休日でしかないんだけど、
度々夫が「藁でできている」ことを思い起こさせる描写が挟み込まれて、さらに滑稽。
それが、妻の何気ない(ただし本人にとっては)行為によって、夫の異常性が露出し始める。
最初は性格的な部分でおよ?と思うくらい変わっていくのだけど、
それがどんどん藁然とした、そしてそれからさらに発展した、奇っ怪な状況に展開していきます。
そこからそれ出る?とゆうような発想に膝を打ちますので、気になられた方はご一読願いたい。
藁である、ということ以外は夫婦間で起こりうるズレの話です。
ただ、そのズレが藁という表層をうまく使って寒気を感じる展開になる。
発想の飛躍性と、普遍性の跳躍をこんなにも鮮やかに、時に滑稽に、だからこそそら恐ろしく感じさせる。
ディテールを書くと読んだ時の驚きが減ってしまうと思った結果うすぼんやりした文になってしまった。
とにかくおすすめです。
次はアトロクでも紹介されていた「静かに、ねぇ、静かに」いってみたいと思ってます。