雑感備忘録

文化と雑感を書いたりします。

2019.02.21『女王陛下のお気に入り』鑑賞記

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各所で話題だし、イギリスものだし、エマ・ストーン出てるし、ということで観てきました。

内容的に広くてゆったりしてるところで観たく、TOHOシネマズ日比谷のスクリーン1で鑑賞。

一番高いプレミアムシートで観るとどんな気分なのかしらと思ったけど、あそこに座ってる人見たことない。

 

 

(しかしこの公式サイトのコメント取る相手センスないよな…見る気が失せたよ…)

 

この日見た3本中2本が松浦美奈さん字幕で改めてすごいなと思う。

同じ字幕翻訳家の石田泰子さんのインタビューが面白かったアトロク回はこちら。

 

 

そして昨今実力作を公開し続けてる20世紀フォックス

ボ・ラプのサウンドロゴも話題になりましたが、

本作でもよ〜く聴くと趣向をこらしてあって驚いた。

大きくて音響のいい館で聴いたからわかったけど、環境によっては気づかないんではと思うような、

でも気づくと嬉しいおこだわりが施されていました。

 

お恥ずかしながらヨルゴス・ランティモス作品は鑑賞したことがなかったのだけれど、

こういった史実ものは初めてだそうで。

だからこそなのか、

歴史物ではあるものの、描写、カメラワーク、美術、衣装、全てが斬新だった。

特にカメラワークは広角レンズ、魚眼レンズが多用されていて、

本作の重要なスタンスである観客の客観性を保つのに大きな役割を果たしていた。

何より過度に照明をたかないというのが英断。

(ほぼ自然光と、暗い時は美術や演者が持ってるろうそくだけ。)

客観視点といえども、物語に集中させる効果がとても高かったように思う。

 

誰が主人公というのではなく、完全なるアンサンブルとして話が推進していくので、

観ているものは誰に感情移入するでもなく、三名の関係性のバランスとその変化を楽しんでいられる。

18世紀初頭、イギリスの国王であったアン女王、

女王の幼馴染であり、その関係性から女王も国政をも支配する、公爵夫人のサラ、

そしてその従姉妹で没落階級のアビゲイル

このアビゲイルがサラに頼み込んで宮中で働かせてもらうところから話が始まります。

 

※ちょっとネタバレめいた感じになります※

 

フランスとの戦争状態である、という状況が背景にある中で、

これまで男性のものとして描かれてきたモチーフ、テーマがすべて女性のものとして描かれている。

支配欲、地位、狩り、乗馬、性欲。

とっても爽快でした。

(逆に男性は不快に感じる人もいるかもしれないけど、鑑賞は平等に願いたいところ)

 

アンは女王だけど、身体が弱く癇癪持ちで、サラの前では甘えた子供になってしまう。

「わたしが国だ!」と語気を強めるけれど、

自我を通したいが為に虚勢を張って、実質的な政治運営はサラに任せっきりだ。

死んだ十七人の子供の象徴としてうさぎを17体飼っているけど、

アンとうさぎは紙一重でもある。

弱さの権化。

自分に愛情が注がれている状態だけが心地良くて、

そのためにサラとアビゲイルを弄ぶ。

本当に弄ばれているのは自分自身であることにも気付かず。

 

サラは一番男のよう。

アンを自分の意のままにすることで、間接的に国を支配し、自身の安定を図る。

その為にはアンに〝遊ばれてあげる〟ことも厭わない。

しかし、その安定の為にアビゲイルに大きく譲歩したことで、逆に自らを追い込むことになる。

そのほころびにも気づいてはいたのだけど、気づかないふりをする。

築き上げた自尊心を傷つけたくなかったから。

最終的にはアンに執着していたのに、「イングランドには疲れた。ここから離れましょう」と夫に対して言葉にすることで決別しようとする。

なんとも苦い去り際…そして男らしい…

 

アビゲイルはその生い立ち故にぶれないし、強い。

そして優しさも持ち合わせていた。

その優しさから最初は素直な気持ちで女王に相対していたし、

特にうさぎを介した初めての接触のシーンで目を潤ませるアビゲイルは、本来の彼女であったはず。

なにより賢明で、

「どんなことがあっても誇りは忘れない!」と役人に対して啖呵をきるほど気高く、品格があった。

しかしその気高さが生んだ結末があのエンディング。

這い上がってきたその階段から再び転び落ちないように、その気高さを保っていたいが為に、地位への執着が優ってしまう。

ラストに向かっていく中で、

アビゲイルがあるものを踏みつけているのを見つけてアンが激昂し呼びつける。

呼びつけられたアビゲイルはアンの指示に従って、アンの足をマッサージする。

お互いがお互いを牽制するかのような関係になる中で、

皮肉なことにフランスに講和を申し込み戦争が終了する。

アン、アビゲイル、そしてうさぎの群像が重なり合う映像に、サラはいない。

それぞれの表情から、遠いところまで来てしまった感は拭えない。

国の平和は保たれたけれど、今後の人間同士の関係性は、翳る予感しかないわけで。

 

正直ここで終わるかぁぁぁあという感じで、後味苦くて最高でした。

いびつな関係にハッピーエンドはもたらされないのだよ。

 

オリヴィア・コールマン

レイチェル・ワイズ

エマ・ストーン

のアンサンブルが最高で、本当にかっこいい。

介在する男性達もいい感じに頼りなくて丁度良かった。

そしてどんなにオールドスタイルな盛り方しててもニコラス・ホルトニコラス・ホルトでありました。

あとチャプター形式になってるのも要点ドン!な感じで良かったですね。

 

チャプター形式映画といえばニンフォ・マニアックも同じ手法で、

こちらはより話が複雑だったから構成として活きていた印象。

 

 

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後味苦い系映画最高ですよね。

以下も感情振り回されて死ぬやつ。

 

 

 

 

 

どっちも青いな!